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PDAの既成概念を打ち破ったザウルスMI-E1。その魅力に迫るために、モバイルライター渡辺が開発者に直撃インタビュー。今回は、すばらしいスライド式キーボードに迫る!
●スライドカバーは高級感を醸し出しつつ、本体を守る強度を持つ
ザウルスMI-E1に大きな魅力をもたらしているのが、独自の機構をもったキーボードだ。昨年10月の「CEATEC
JAPAN 2000」で初めてその姿を見せたとき、あまりの斬新さに驚いたのは筆者だけではあるまい。このキーボードの搭載までの秘話は前号をご参照いただくとして、さっそく機構技術担当のモバイルシステム事業部技術部 副参事の永井克治氏に伺った。
永井: |
初めてこのキーボードのコンセプトを見せられて、技術者としてこれは挑戦し甲斐のあると思いましたし、スタッフ全員が乗り気になりました。ただし、コンセプトが決まったのが8月、CEATECが10月。非常に短期間のうちに準備しなければならず、大変でした。
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製品化することを前提に展示会に出したわけだ。つまり、出してしまえば、止められない。そのようなプレッシャーの中で開発が進んでゆくことになる。
永井: |
とにかく、PDAのサイズの制限の中にキーボードを入れるということで、様々な挑戦をしたのが、MI-E1の開発だったと思います
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カバーを下方にスライドすると出てくるという斬新なキーボード。携帯電話のように折り畳み式も考えられるわけだが、あえてスライド式にしてあるという。これは前回のインタビューにもあったように、長時間使うというコンセプトによる。
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永井: |
スライド式ということで、強度や機構に様々な工夫をしてあります。たとえばスライドを開いた状態で落としてしまった場合に、カバーにかかる力を逃がす仕組みも搭載しました。つまり、大きな力がかかったときにカバーは破損する前にはずれるようになっています。
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このあたりが長年にわたってPDAを作り続けてきたメーカーだ。商品コンセプトは若手の意見を大きく取り入れつつ、肝となる技術はこのようなベテランのいぶし銀のノウハウが詰まっている。確かに、スライドを開いて中を見ると、支える部分には金属を使うなど、PDAに必要な強度を出している。
前回の「基本コンセプト篇」に登場した松本氏は、
松本: |
カバーを引き出したとき、しまったときのカチッという感触にこだわっていただきました。高級感があるということをこういう部分にまで追求しています。
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しかしそのようなこだわりも機構設計の裏づけがあってこそ実現されるのだ。
永井: |
このような動きのある機構はかなり難しい設計になります。しかし、作るとなればそれなりのものを作る必要があります。しかも、カバーには多くのボタンがあるので、その信号を伝える機能を持たせなければならないなど、課題がたくさんありました。
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実は、最近のことだが、筆者はMI-E1を道路に落としてしまった。カバー側からたたきつけられたが、バンパーのように見える樹脂部分だけが傷ついたものの、本体には全く影響が出ていない。そのくらい強固なカバーの中に隠されたキーボード。特許やノウハウによって守られているのだ。その開発秘話に迫ってみよう。
●限られたサイズの中に最大限の機能を乗せた夢のキーボード
一度見たら忘れられないデザインのキーボード。デザインについては次回、さらに直撃インタビューを予定している。今回は、その設計と機能について聞いてみよう。
永井: |
まず、キーの数ですが、商品コンセプトにパソコンと同じキー配置ということがあったので、横の数がQ〜Pの10個、そして縦に3段のアルファベットに機能キーという4段構成というのは最低限の大きさとして決まりました。ただ、数字キーをどうするかなど、乗り越えなければならないハードルはいくつもありました。
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なるほど、確かにパソコンのキー配列に準拠するには、これは合理的だが、最終的に何個のキーにするかの決断は難しかったであろう。しかし、実際に筆者は原稿を違和感なく打っている。つまり、このキー配置はかなり練られた結果として決まったものだと思う。
永井: |
キーを放射状に配置しているのは、なるべく広いキー間隔を取るための工夫です。指で複数のキーを押さないようにするには、それなりの間隔が必要なので、このようにしたわけです。
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弧を描くことでその分だけ長くなるわけだ。
永井: |
アルファベットのキーをよく見ていただくと、縦一列ではなく、少しずつずらして配置されているのがわかると思います。これもミスタッチを避ける工夫の1つです。また、キートップは真円ではなく、横長になっています。ミスタッチしにくく、それでいて打ちやすい形状を探したところ、このテントウ虫のようなキーにたどり着きました。またカバー部のメールチェックボタンも、操作ボタンなどの他のボタンより低くして、誤動作を防止しています。
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ちなみに、キーは横7mm、縦6.5mm、ストロークが0.2mmになっている。さらに、押し心地についても、かなりの試行錯誤があったという。
永井: |
指先で押すキーなので、押し込みの硬さと高さのバランスが重要でした。なるべくキーは高い方が打ちやすいのですが、カバーまでのクリアランスの限界があります。0.1mmという刻みで微調整を繰り返して、今の高さになっています。また、キーの硬さも重要で、軟らかすぎるとミスタッチの原因になり、硬すぎると指の皮膚に埋まってキーを押せなくなります。このあたりのノウハウは弊社の携帯電話の設計陣からも情報をもらって作りました。つまり、携帯電話と同じような使いやすさを投入しているのです。
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松本: |
キーボードの感触については、何度も微調整をしてもらいました。開発期間も短く、普通なら無理だと言われるような要求でしたが、休日を返上してまで作ってもらったのです。それが、このキーボードです。
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打ちやすいと好評のキーボード。妥協のない挑戦が、この使いやすさをもたらしてくれるということがわかった。技術者の魂の結集ともいえるスライド機構とキーボード。ありがたく使わせていただくとしよう。
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