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発売以来、ちまたで大好評MI-E1。新しい時代にふさわしいザウルスの新しいコンセプトを見せてくれている。様々な部分でアイデアやセンスを感じさせてくれているのだが、その原動力たる開発陣にモバイルライター渡辺がインタビュー。
今回はその第1回目で「商品企画」だ。
●市場の見方を一転させた商品コンセプト
昨年の12月15日に発売以来、今までとは全く違う評価も受けているのが新生ザウルスMI-E1だ。ちなみに昨年の店頭販売実績(大都市圏の主要パソコンショップのPOSデータに基づく実売実績)を表彰するBCN
Award2001の「PDA部門」でシャープが一位になったのはご存じだと思う。つまり、PDAのトップシェアメーカーが満を持して発売したのがMI-E1。売り上げもさることながら、ザウルスに新しいコンセプトをもたらしたことも事実。モバイルビデオ、内蔵キーボード、拡張性のある2つのスロット。まだまだ挙げられるだろう。
そこで、この商品コンセプトを打ち出した開発メンバーに直撃した。
まず、開発の総指揮を執ったモバイルシステム事業部 商品企画部長の鈴木隆氏に、このMI-E1の開発におけるキーワードを伺った。
鈴木: |
このところの社会における携帯端末の普及で、ザウルスに求められる機能にも変化があったことを感じていました。たとえば若い世代は携帯電話でメールを楽しんでいます。上の世代でも、パソコンを使う機会が増えるに従ってキーボードを使うのは当たり前になっています。つまり、ザウルスに求められてきた手書きによる簡単な入力以外に、キーボードでメールをしたり、文字入力をしたいという要望が増えてきていました。そのよう環境の変化の中で、弊社では3つのキーワード『e』を提案してゆこうを考えました。
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確かに、ビジネスではメールを使うのが当たり前になり、かつてはFAXだったものも添付メールになるなど、社会の変化は著しい。その一方で、PDAの認知度が上がり、その役割も変わってきている。
鈴木: |
商品コンセプトとして考えたのが、e-mail、entertainment、expansionの3つの要素です。『e-mail』は立ったままどこでも電子メールを読み書きできるというコンセプト。そのためにスライド式キーボードとP-in
Comp@cat内蔵可能というスペックにしました。『entertainment』というのは、弊社の調査で電車通勤の楽しみたいことにビデオ鑑賞というのが大きかったことに応えまして、簡単にTV番組を録画再生するシステムとビデオ再生機能の提供。さらに時代の最先端であるMP3再生機能も必要と判断しました。さらに『expansion(拡張性)』は、ほかのPDAと一線を画する要素として、周辺機器への広い対応。コンテンツサービスと組み合わせた用途や様々な機能の広がりでPDAを楽しみ、そして活用いただけることをコンセプトにおきました。
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たしかに、PDAにこれら3つの要素があれば、かなり快適でたのしくなりそうだ。ところが、キーボード搭載というと、これまでのザウルスが武器としてきた手書き認識と対抗することになるオペレーティングを搭載することになる。この点については方向転換と見るべきなのだろうか?
鈴木: |
パソコンや携帯電話の普及等でキーボードアレルギーがなくなったわけですから、キーボードを搭載するという商品コンセプトを掲げるのも当然の流れです。ただ、長文のメール入力などは、キーボードが便利ですが、スケジュール入力なら手書きの方が早いなどそれぞれの良さがありますから、それを残したままキーボードを付けようということになったのです。
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MI-E1のキーボードは写真のようにスライド格納式になっている。実はこのようなデザインは他に例がない。ふつうはクラム・シェル(蛤の貝殻)型といって、液晶パネルを開けるとキーボードがあるというタイプが当たり前だ。
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鈴木: |
この形になったのは、立ったままメールが打てるというコンセプトを突き詰めた結果です。もともとコミュニケーション・パルでクラム・シェル型の実績がありましたが、モバイルで色々なシーンで使えるスタイルにしたかったのです。
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現在のメール需要を的確に捉えたコンセプトがMI-E1誕生の裏側にあるということになる。さすがにメール専用端末の世界でもヒット商品を出すだけあって、普通の人が自然にメールを送受信するということに敏感である。
鈴木: |
ただキーボード付けるというのではなく、みなさんが使い慣れた環境に近い方がいい、つまりパソコンのキーボードに近いことが望ましいわけです。かな漢字変換もパソコン並の一括変換が必要で、そういった要素も考慮しました。さらに通信機器との接続では、全通信キャリアに対応させるということにも力を注ぎました。つまり、お客様の持っているお気に入りの通信環境を変えずにMI-E1を使ってもらえるというコンセプトです。
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メール1つにしても、これだけこだわったコンセプトを打ち出しているということだ。通信機能が快適なのは、搭載されたメールソフトや録画機能のあるインターネットブラウザなどでもよくわかる。このあたりは、さらにソフトウェア開発者にインタビューを予定しているのでご期待いただきたい。
さて、市場を驚かせたMI-E1のもう1つの機能のビデオ再生についてはどうだろうか。
鈴木: |
これまでの電子機器の発展の様子を見ますと、色々な家庭内の情報環境がモバイルでも利用できるようになってきていると思っています。たとえば、固定電話が携帯電話になったことで生活スタイルが一変しました。音楽がポータブルMDプレーヤーなどで楽しめるもの大きな流れです。この延長として、ビデオ再生やテレビ視聴がモバイルになる、ということで、今回のザウルスはそこでビデオ再生を取り上げたわけです。モバイルとしての映像文化をPDAであるザウルスが拓いていくというコンセプトを打ち出しました。なんといっても、モバイル製品は自己完結していることが重要だと思っています。これ一台でいろいろなことができるということです。
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時代の潮流に乗ることがヒット商品を生み出す原動力ということだろう。
●新しいコンセプトを支える若手社員
一方、実際に商品にどんな機能を搭載し、どのような使い勝手にするのかというような具体的な商品コンセプトは、若手の同事業部
商品企画部 副主任の松本融氏をリーダーに開発が開始された。
松本: |
いままでザウルスに求められてきたのがビジネスの現場で使ってもらうということでした。そのコンセプトは発売以来ご好評を得ております。ビジネスシーンで取り出せるようなデザインであったし、そういう機能を多く搭載しています。しかし、携帯端末の普及にともなって、PDAに求められるものが変わってきているので、そうした新しい要素をザウルスに注ごうと思いました。簡単にいえば、自分自身が自然に使えるモバイルスタイルを実現したかったともいえます。
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確かに、今までのザウルスの印象を残しつつも、細部をよく見れば曲線の出し方などいろいろな違いがわかる。デザインについては後にインタビューしたものを公開するのでお待ちしていただくとして、全体のコンセプトを追ってゆくと、いろいろなことが見えてくる。
松本: |
いままで横型だったものを縦にしたのは、長時間使っても手が疲れないということを重視したからです。それと同時に、見た目でもいままでとは違うコンセプトであることもわかっていただける商品にしたいと思いました。最近は携帯電話を使って人前でメールを読み書きすることが当たり前の文化があります。ザウルスでも同じように人前で使っていただけることが大切ではないでしょうか。
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しかし、横を縦にするということは、単に向きが変わるのではなく、アプリの使い勝手などのチューンが難しいのが現実。そのあたり、今までのザウルスの使い勝手とほとんど変わらない上に、さらに使いやすくなっている。
松本: |
縦型スタイルの導入でソフトのデザインの変更を行いました。ボタンデザイン・配置などをルールを決めて、1つ1つ修正していったわけです。このルールを見つけだすのが大変でした。もちろん、アプリケーションによっては横表示が使いやすいことも事実なので、縦でも横でも使えるデザインです。そのために、まったく新しいキーボードを技術に考えてもらい、デザイン部門には所有することが楽しくなるような新しいデザインを頼みました。
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新しい世代に向けての商品を若手が作り出すというのは、至極当たり前なのだが、実際にそれができるかどうかは微妙だ。しかし、この松本氏をはじめとして、MI-E1には若手の意見が数多く取り入れられている。デザイナーには家電のヒット商品を手がけた若手人材が本社から呼ばれている。
様々な機能の搭載や改良、デザインの一新などMI-E1はこれまでのザウルスとは違っている。簡単に言ってしまえば開発者の世代交代なのかもしれないが、若い人のセンスをくみ取る柔軟なベテランメンバー、部署を超えて全社が応援するような体制。それらが1つになった結果、ヒット商品としてのMI-E1が誕生したと思った。
そして前出の鈴木氏はこう語る。
鈴木: |
PDAの開発の基本コンセプトは、先にサイズありき。ですが、物作りのこだわりとして手抜きはできない。さらに、時代が呼んだキーボード搭載。キーボードは善し悪しがすぐにわかる非常に難しい部分です。しかも、今までにない設計です。そうした中で、この商品を発売するに向けて多くの決断をしました。商品の企画段階で、入れる機能、削除する機能の判断がむずかしかったわけです。たとえば、携帯端末にこれまでにない快適さをもたらせてくれるPinC@mpactを搭載できるようにしたい。しかし、本体が厚くなってしまう。内蔵キーボードを使いやすくする改良として、弊社がワープロで蓄積した連文節変換エンジンを搭載したわけですが、大きな辞書を搭載するなどのに伴うコストアップをどう抑えるかなど、課題はたくさんありました。商品コンセプトが決まったのが2000年8月、このような1つ1つの課題を皆でクリアして、MI-E1を世に出すことができました。多くのみなさまにご好評を得られて、ほっと胸をなで下ろしています。
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単に技術やセンスだけではなく、関わったメンバーの前向きな信頼・協力体制があったからこそ生まれ出たわけだ。いい商品にはいい人間関係ありき。そう思えたインタビューだった。
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